『天使のナイフ』薬丸岳|デビュー作の新装版

眩い万華鏡に注目です

 私の大好きな作家、薬丸岳の『天使のナイフ』を読了しました。意外な展開の連続は予想通りで薬丸岳作品の真骨頂と思います。もう一つ特筆したいのはこの小説が少年犯罪という奥の深い様テーマに向き合っている作品であることです。

 3人の少年が女性を襲い命が奪われました。殺された女性の夫は犯人について知ろうとします。しかし、法律により14歳未満の少年が犯す殺人は犯罪とみなされず罰せられることはありません。また少年達の年齢ゆえに被害者の夫は妻の命を奪った少年の顔さえも知ることができません。

『天使のナイフ』はスピード感あふれる進行で謎が解かれます。物語が進行するなかで少年犯罪の抱える問題を丁寧に語っていきます。ミステリー小説らしい、読み終えてなんとも言えない充実感を感じる一冊と思います。

『天使のナイフ』のあらすじとNovelsman Note<独り言>を記します。読み終えたあと無性に万華鏡が欲しくなりました。。

『天使のナイフ』 あらすじ

天使のナイフ:保護手続き

 桧山貴志はセルフサービスのコーヒーショップ「ブロードカフェ」大宮店の店長です。そこそこ繁盛していて数人のアルバイトを雇いながら桧山自身が切り盛りしています。

 桧山の妻祥子は4年前に命を奪われました。妻を殺したのは13歳の中学生3人組少年A・B・Cでした。 犯人を憎んでいますが、当時桧山は事件の詳細について知ることができませんでした。法律により14歳以下の少年が刑罰法令に触れる行為をしても犯罪を行ったことになりません。妻を殺めた少年達は、裁きを受けることなく更生するために保護されます。また少年たちの年齢ゆえに桧山は妻の命を奪った少年の名前や顔さえも知ることができません。どこにも向けようのない怒りが、桧山の内側で暴れ回っていました。

天使のナイフ:少年B

 4年の月日が経ったある日コーヒーショップに警察が聞き取りに訪れました。祥子を殺した少年B、沢村和也が大宮公園で殺されたことを知らされます。桧山は自分が犯人として疑われていることを感じています。

 2001年の少年法改正によって、桧山は祥子の命を奪った少年たちの名前と事件の概要は知ることができています。警察から沢村の死を知らされて、桧山は少年達が本当に更生したのかを知るために行動を起こします。

天使のナイフ:犯罪の記録

 祥子の命を奪ったのは少年Aこと八木將彦、少年Bこと沢村和也、少年Cこと丸山純でした。桧山は調べを進めるほど憂鬱な気持ちになっていきます。ある日沢村の幼なじみから八木の情報を入手します。

 桧山がお店にいると、コーヒーショップに八木から会いたいという電話が入ります。しかし、八木に会うことができないまま八木は何者かに殺されます。桧山の謎は深まるばかりです。

 桧山が途方にくれている中、コーヒーショップに差出人不明のビデオテープが届きます。そのビデオは3人の少年が幼児を刃物でいたぶっている下劣な行為を映したものでした。

天使のナイフ:万華鏡

 桧山は丸山に会い問い正します。丸山は桧山の予想外の返事を返しました。3人は誰かにビデオを公開すると脅されて祥子を殺したと言うのです。誰が3人を脅迫したかを丸山は言いません。桧山は祥子を死に追いやった脅迫者を自分で探す決心をします。こうして桧山は祥子が殺されるまでの成り行きを知ることになるのです。

 祥子の葬式で知り合った保育園の先生から祥子の生い立ちを聞いた桧山は、東村山のある女性のお宅に伺って話を聞きました。その帰り、街角のアンティークショップに万華鏡が4本並んでいます。その万華鏡を見た桧山は信じたくない真実を確信します。その時、桧山は丸山からの電話を受けます。「来なければ娘を殺す」

 桧山は急いでコーヒーショップに戻ります。娘は無事なのでしょうか。。

『天使のナイフ』 Novelsman Note <独り言>

犯罪被害者の無念

 もし私の家族が少年少女の犯罪行為によって命を奪われたら私自身が冷静を保つ自信はありません。少年少女が犯す殺人は犯罪ではないのでしょうか?気になってネットでいろいろ読んでみました。

 裁判所や法務省が、未成年でも罰すべきものは罰する、と考えていることは理解できました。しかしながら、14歳以下の少年達が暴走することについて薬丸岳さんが描かれた状況から今も変わっていないと感じました。いろいろな考えがあると思います。私は、悪意で人を傷つける行為に年齢は関係ない、と考えています。

「天使」

あとがきに『天使のナイフ』は薬丸岳氏のデビュー作、とありました。私がつい一気読みしてしまう薬丸岳氏のデビュー作が『天使のナイフ』と知ってますます薬丸さんのファンになった気分です。

 本作の題名「天使」という言葉は文中にほとんど登場しません。冒頭に記した「万華鏡」が題名を連想させるキーワードとして謎解きに重要な役割を演じています。ぜひ薬丸岳が描くミステリーの世界を楽しんで欲しいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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