ハッピーエンド
『神の子』はIQの高い少年が引き起こす犯罪を軸に、大人の欲望と愛情を描いた長編ミステリー小説です。丁寧に人物描写をしながら予想外に展開していく上巻は読み応えありと思います。一般人がほとんど知ることのない少年院の日常も興味深く引き込まれていました。ハッピーエンドの結末にホッとして読み終えました。
『神の子』のあらすじとNovelsman Note<感想>を記します。本書を読むきっかけになれば嬉しいです。
『神の子』 あらすじ
神の子:脱走
少年院、罪を犯した少年たちを更生する施設の教官内藤信一は新人、町田博史の少年調査記録を見ています。殺人を犯して入院した町田は最近まで戸籍がありませんでした。義務教育を受けず学校の集団生活も経験していない町田ですが、記録にはIQ161以上と異常に高い数値が記されています。内藤は冷徹な町田の言動が気になっています。
同じ少年院に雨宮一馬という新入生が加わりました。身長185cm体重92kgの巨漢の雨宮は町田と同じく殺人の罪名ながら軽度の知的障害を有する少年でした。雨宮には姉の美香がいます。姉は雨宮の面倒を見ているようで、時々面会に来ます。先生の監視から離れた面会室で雨宮は美香に本音の話をしているようです。
磯貝は町田のことを知っている生徒です。町田は少年院に入る前、人を騙すシナリオを作っていました。そのシナリオを実行する一人が磯貝でした。磯貝は出院後に町田と共にひと花咲かせようと考えています。
院外教育で老人ホームを訪問した日、食事時に食堂から火が出て警報が鳴り響きました。教官が消化を終えて点呼をかけると町田と雨宮と磯貝の姿が消えています。3人は少年院のバスを奪って脱走したのでした。
3人は逃げきれずに内藤に見つけ出されました。町田は自分が首謀者であると内藤に告白しています。磯貝はケガで両手を失くし雨宮は別の少年院に送られました。内藤は町田が首謀者ではなく、何かが蠢いていると考えています。
神の子:TSN
為井純は大手ドラッグチェーンタメイドラッグの御曹司です。父親が会社の経営を弟の明に譲ることを知り、反抗心から家を飛び出して一人で暮らしています。為井は同じ大学に通う夏川晶子に恋心を持っています。
為井と同じ大学には町田も通っています。町田は少年院にいる間に義務教育の知識を吸収して高卒認定試験に合格していました。少年院を出院後、内藤の紹介した工場で居候として働き出しました。町田の働く工場が納品している大学の教授が町田の並外れた分析能力を知って大学に進学することを勧めて入学していました。町田は人間味に欠け、他人との交流を避けながらも黙々と働きます。
晶子は為井に発明家繁村を紹介しました。為井は繁村が作った新しい合成樹脂を見て父親を見返したいという血が騒ぎ出しました。為井の起業相談を受けた大学教授はずば抜けた能力を持つ町田を為井に紹介します。こうして為井は繁村の発明品を町田の頭脳と晶子の力に頼って会社をおこすことになりました。社名はTSN、町田は自分の頭文字を社名に入れることを受け入れません。
神の子:DVD
前原楓は町田が働く工場の経営者の娘です。楓は母が見ず知らずの町田を受け入れたことに納得していませんでした。しかし楓は偶然に町田の部屋で町田が映る犯行のDVDを観てしまいます。その映像では町田が殺人を犯していないことがわかります。楓は町田の本性を知ろうと動き出します。
楓は町田が時々会っている人物、磯貝と話します。磯貝は両手を失くして生きる自信を失っていますが、楓の知らない町田のことを教えてくれました。楓は町田の事を深く知りたくなっていきます。
町田と一緒に少年院脱走を図った雨宮は裏社会に復帰しています。雨宮が世話になっている組織のボスの指示を受けながら、自分を育ててくれた姉を助けようと懸命に生きています。しかし雨宮はクルーザーの爆発事故に巻き込まれ、大怪我をして助け出されます。
神の子:「ムロイ」
内藤信一は少年院を辞めて亡くなった一人息子の供養をしながら気になっている雨宮に対する疑念をはっきりさせようと調べ回っています。雨宮達の脱走から5年後に内藤はやっと見つけた雨宮に会います。雨宮は内藤が話すことに一切無関心を装いますが、「ムロイ」という一言を聞くだけで顔が蒼白になっています。
磯貝にも会って話を聞いた内藤は町田が絡む当時の様子を理解し始めています。しかし「ムロイ」については依然として手がかりをつかめずにいます。磯貝から楓も「ムロイ」のことを知りたがっていることを聞いた内藤は楓と話します。楓は本当の町田を知ろうと内藤に協力し、内藤は雨宮をめぐる真相に近づいていくのです。
神の子:対決
為井の会社は順調に業績を伸ばしていました。しかし品質問題をつかれてマスコミに報道されてしまいます。問題解決を担当する夏川晶子は突然退職し、町田も行方しれずです。為井は途方に暮れてしまいました。
そんな時町田が居候していた前原製作所が火事に遭い工場再建の目処が立ちません。為井は前原製作所の支援を考えていますが、TSNの経営が危うくなっていて支援どころではありません。追い討ちをかけるように為井の弟明が経営するタメイドラッグを外資に売却すると言い出します。
混乱する状況の中で内藤は「ムロイ」の正体が見えてきました。楓は意外な真相の核心に近づいていきます。
町田が動き出して物語の結末を迎えます。「ムロイ」の正体とは、そして町田の本性とは。。
『神の子』 Novelsman Note <独り言>
ミノル
この小説には「ミノル」という男が序章から結末まで登場します。町田や登場人物達の行動に大きな影響を与える人物ながら「ミノル」自身が自分の意思で行動することはありません。私の自己顕示欲について考えさせてくれました。地味なのに輝いている「ミノル」に要注目です。
私は小説「神の子」はどちらかというと物語の進行に気を遣っているなと感じました。特に下巻はミステリー連続テレビドラマを見ているようにストーリーが進行していきました。人物描写に長けた私の知っている薬丸岳氏の作品と少し違った感覚でしたので、氏の作品をもっと知っていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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