『平成くん、さようなら』を読みました。平成元年1月8日生まれの主人公「平成くん」が恋人「愛ちゃん」とすごす日常を描いた恋愛小説です。日本は安楽死が認められている国という設定で平成くんは安楽死することを宣言しています。
若い二人は超セレブな暮らしぶりです。何不自由ない生活の中で安楽死を希望する主人公と、自分を「凡人」と考えている「愛ちゃん」とが愛し合い、話し合い、二人で葛藤しながら生きていく様子が丁寧に語られます。全体に軽いタッチで2時間くらいあれば読み終えることができる一冊です。
蛇足ながら、平成31年 令和元年は西暦2019年で改元は5月1日です。時間たつのは早いですねぇ
あらすじと<Novelsman Comment>感想を記します。まだ読んでいない方、読まれてはいかがでしょう。
目次
『平成くん、さようなら』 あらすじ
1989年 平成元年
平成元年1月8日生まれの主人公は、ファーストネームを平成といい「ひとなり」と読みます。187センチの長身に小顔の平成くんは東日本大震災(2011年)題材の学士論文が注目されて一躍有名になります。改元された日に生まれた平成くんはメディアから平成の代表として扱われています。
恋人の愛ちゃんは人気漫画家、瀬戸流星の娘です。氏は他界していますがキャラクターの著作権は今もビッグビジネスです。そのおかげで、愛ちゃんは父親の著作権管理の仕事に就いて不自由のない生活です。
平成くんと愛ちゃんは一緒に暮らしています。東京湾を一望できる家賃130万円の部屋で居心地のいい暮らしです。グーグルカレンダーで予定を共有し、「ねぇグーグル」といえばグーグルホームが何でも応えてくれる環境です。
<Novelsman Comment>
文中にたくさんのブランド名が登場します。テンピュールとかバーキンとかわかるのもたまにありましたが、多くは初めて目にする名前でした。高級感が十分に伝わってきます。お楽しみください。
“僕はもう終わった人間だと思うんだ”
平成くんは愛ちゃんに安楽死することを宣言しています。日本は世界で一番安楽死しやすい国として有名で、個人が死を希望する正当な理由があれば尊重される社会になっています。しかし愛ちゃんは平成くんが安楽死を選択する理由をまだ聞くことができていません。
熱海のビーチで二人の時間を過ごしている時、バレーボールが二人の顔の前に飛んできました。愛ちゃんはよけようとしますが平成くんは顔色をかえません。考え込んでいた平成くんが愛ちゃんに打ち明けます。
平成(ひとなり)くんの決心は、そして。。
『平成くん、さようなら』 <Novelsman Comment>感想
“まるで20世紀の人みたいなことを言うね”
愛ちゃんが平成くんに死んだらだめ、自殺したらだめ、と力説したことに答える平成くんの言葉です。小説では平成くんがもっと死は自由になってもいいと考えていると反論しています。
私たち一般的な人間はいまのところ愛ちゃん派が大多数ではないでしょうか。結局死ぬから死は自分で決めるという考え方が数十年後に常識になっているかもしれません。しかし動物としての生殖本能とは別の、人間だけがもっている「理性」は生きることが前提になっています。死ぬことは「受け入れること」でそこに選択や判断があるのでしょうか。難しく考えることはないのでしょう。人間が人を好きになり、子供を授かり、自分の子供のために一生懸命働く。私は現代の当たり前の考え方をよしとしようと思います。
“一秒でも長く生きていてほしいってのは、残される者のエゴじゃない?”
二人が可愛がっているペットについて口論する一節です。私はこの一節がペットではなくて私達人間にむけられたように感じました。今も頭に焼き付いています。
「高齢で肺炎になって気管切開した」「腎不全で人工透析していて食べ物制限が厳しい」という話しをつい最近続けて耳にしました。こんなとき自分だったら、と考える自分にこの一節が頭にこびりついたのだと思います。
この課題に自分が直面した時に冷静に考えることができる健康な心身でありたいものですね
最後までお読みいただきありがとうございました。
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