「喧嘩(すてごろ)」著者:黒川博行を一気に読み終えました。「ステゴロ(素手の喧嘩)でおまえに勝つやつはおらへん」と悪徳刑事中川が公言する豪快なヤクザ桑原保彦とヤクザ慣れした建設コンサルタント二宮啓之の二人がゆく先々で大暴れしながら、地方選挙や権力者たちの醜さを暴いていく社会風刺的ハードボイルド小説です。以下にざっくりあらすじを述べておきます。感想とか共有できると嬉しいですね。
「喧嘩」あらすじ
クラスメートとの出会い
二宮啓之は大阪ミナミで建設コンサルタントを営んでいます。本来の建設コンサルタントは建築工事や解体工事の仲介斡旋ながら、二宮は収入の多くを「サバキ」で得ています。ビルや自治体開発の建設案件には入札妨害や騒音などで難癖をつけて金銭を強要する暴力団やその関連企業がまとわりつきます。「サバキ」とはそのヤクザたちをヤクザを使って抑える前捌きのことで、二宮は建設会社からサバキの依頼を受けると適当な組筋を斡旋し、その仲介料で事務所を経営しています。しかし平成23年春に施行された大阪府暴力団排除条例は二宮の収入源を直撃し、稼ぎは激減しているのです。
そんなある日、事務所に同じビルに引っ越してきた高校時代の同級生が同じくクラスメートで大阪の国会議員の私設秘書をしている長原聡を紹介されます。二宮の知る限り国会議員の地元秘書は談合屋で利権屋、ヤクザとほとんど変わりがないとみています。その長原が二宮に相談を持ちかけます。「事務所に火炎瓶を投げ入れられた、大事には至らなかったが暴力団麒林会の仕業らしいのでお金で解決するサバキを依頼したい。」二宮は報酬につられてこの仕事を引き受けるのです。
桑原・二宮の疫病神コンビが活動開始
長原からサバキの仕事を受けた二宮は仲介に入る暴力団をあたりますが、麒林会が神戸川坂会の直系で100人の組員を擁する鳴友会の枝筋であるためにどの暴力団も話に乗ってきません。仕方なく腐れ縁で結ばれた二蝶会を破門されたヤクザ桑原保彦に話をもちかけ、この案件を桑原と組んで解決することとなります。
疫病神コンビは国会議員の筆頭秘書黒岩恭一郎と会います。「麒林会から1000万円を要求されている、200万円で解決してほしい」との依頼を受けて二人は麒林会に仲裁の直談判に出向きますが解決できないいまま組を出ます。
これを皮切りに桑原のリードで事件の背景を明らかにしていきます。黒岩が政敵である元府議会議長の蟹裏文夫とつるんでいること、地方選挙では役所の幹部が絡んで金で票集めをしていること、そして黒岩のボス国会議員西山文彦にはばらされては困る弱みがあることを。二人の追求の手が休まることはありません。
国会議員の弱み
桑原はヤクザ4人をボロボロにしてしまい追われる立場になりながらも、桑原-二宮コンビの手荒い調査は続けられ、国会議員西山文彦事務所が暴力団鳴友会とカネをめぐって揉めていることを突き止めます。
疫病神コンビは西山代議士が医科大学ともめている裏の事情を知るため、黒岩を有馬温泉裏の山林に追い詰めて荒っぽい拷問で事情を聴きだします。黒岩は5,000万円を桑原に払うことを約束して預金通帳を渡します。
銀行から黒岩のカネを引き下ろそうとする時も、疫病神コンビはヤクザに執拗に追われます。桑原は大けがをしながらもあきらめることなく策をめぐらせ、サバキの決着をつけるために東京で西山文彦代議士と面談します。蟹裏と黒岩の悪行を洗いざらい知った国会議員西山の行動やいかに。そして疫病神コンビ桑原と二宮はサバキの代償を得ることができるのでしょうか。。
「喧嘩(すてごろ)」黒川博行 感想<Novelsman Comment>
「喧嘩」を読みながら、「議員秘書さんっておいしい立場?」とか「国会議員さんは実際なにやってるの?」と政府の揚げ足取りをしているとしか思えないようなやり取りをしている国会のテレビ中継を思い出しながら考えてしまいました。政治にしても会社経営にしても人が行う社会活動に裏があることはうすうす感じながらも、知っておくべき情報と知らなくても困らない情報があると思います。ヤクザの争いや極道の裏側は真実を知らなくてもいいと思いますが、私たちの税金が収入の国会議員や地方議員がもし「喧嘩(すてごろ)」にあるような使い道をしているとすれば言語道断です。わたくし事ながら私の地元で市長選が公示されて、早速候補者の情報を調べだした私でありました。
疫病神シリーズとして発売されている黒川博行氏の作品は疫病神を第一作として第七作まであり、「喧嘩」は第6作とされています。どの作品も十分に楽しめるし、社会風刺の効いた読みごたえのある作品と思うのでたくさんの人に読んで欲しいなあと思いながら本を閉じました。ではまた次作のレビューでお会いしましょう。
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