『告解』薬丸岳|心情描写が秀逸です

 『告解』を読みました。薬丸さんの小説はどれも心情描写が真に迫り引き込まれて読み進めてしまいます。『告解』もまた私の心に刺さる言葉が続いて、最後は涙を流しながら読み終えました。

 『告解』はひき逃げ殺人を犯して実刑判決を受けた若者が主人公です。刑期を終え世間の冷たい風にさらされながら自分自身と戦う主人公の心の成長の軌跡が描かれています。

 『告解』の要点とNovelsman Comment<感想>を記します。本書を読むきっかけになれば嬉しいです。

『告解』 要点 

『告解』 赤い輝き

 籬翔太は有名大学に通う大学生です。友人と飲んで深夜に自宅に戻ると恋人の栗山綾香からメッセージが入ります。「今すぐ会いに来てくれなければ別れる」というメールを見て翔太は車で綾香の家に向かいます。

 翔太は住宅街を抜けた大きな道路で大雨の中で何かに乗り上げた激しい衝撃を感じます。バックミラーの赤い輝きを目にしながらもアクセルペダルを踏み込んでいます。

 法輪昌輝は上尾警察署から母親の法輪君子が車に撥ねられて死亡した連絡を受けます。昌輝は父親法輪二三久に母が亡くなったことを告げます。父はショックのあまり言葉がありません。

 警察はひき逃げ事件として捜査を始め、ほどなく翔太は逮捕されます。本当のことを警察に言えないまま裁判となり懲役4年10ヶ月の刑が確定します。法輪昌輝は翔太が警察に言った「人だと思わなかった」という供述に無念を感じながらなすすべもなく時が経ちます。

『告解』 冷たい風

 刑務所を出た翔太の周りは大きく変わっていました。両親は離婚して母の苗字が変わり、父も酒浸りの毎日を送っています。弁護士から被害者に謝罪することを勧められますが、翔太は実行することができません。

 法輪二三久は認知症の症状が出はじめて、昌輝に名古屋で暮らすことを強く誘われています。しかし二三久は「やることがある」と言って自宅を離れようとしません。

 綾香が翔太をアパートの前で待っています。翔太は綾香のどんな言葉も聞き入れることなく逃げるように部屋に入ってしまいます。綾香は翔太が知っておかなければならない大切なことを話そうと会いに来ているのです。

 翔太は父の葬儀の場にいます。自分のせいで父の人生を狂わせてしまいながら結局何もしなかったことを悔いながら、無言の父に聞きます。「自分はこれからどうすればいいのだろうか」

『告解』 自分への罰

 翔太は自分の前科を承知で採用してくれたグループホームで働きだします。ある日職場からの帰り道、二三久がナイフを握りしめて翔太を待っています。その時、昌輝が来て二三久を後ろから羽交い絞めにして連れていきました。二三久のナイフを見て思います。「どうして自分だけがこんなに追い詰められなければならないんだ」

 入院している二三久に面会した綾香に二三久は、どうしても籬翔太に会いたいと言います。綾香は翔太に会い大切なことを話します。翔太は心の中で叫びます。「父さん、おれはどうすればいいんだ」

 翌日、翔太は二三久の病室にやってきました。二三久は話し始めます。

 そして翔太は心の中で何かがはじけるのを感じて言います。「あなたのせいじゃないんです!」

『告解』 Novelsman Comment <感想>

 主人公翔太は自分の罪の深さを理解しています。しかし被害者に謝罪しようとはしません。車を止めなかったことを口にしようともしません。ひき逃げしてしまった心の傷を隠そうとしても傷が消えることはありません。逃げることなく真実と正面から向き合うことだけが心の傷を和らげる方法であることを亡き父から教わっている一節に心から感動しました。

 心の罪を負っているもう一人の人間、法輪二三久の文字通り「告解」は小説『告解』のクライマックスです。翔太の心を弾けさせた二三久の叫びは、程度の違いこそあれ私の苦い経験を思い起こさせてしまいました。

 人が自動車事故のように思いもよらないアクシデントを起こしてしまうと心の傷を負います。もしも私がそのような立場になったら、せめて自分に正直に生きることは実践したいと思います。小説の中で翔太の父が手紙に書いています。

逃げ続けている限り人は心から笑えなくなる

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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