螺旋プロジェクト作品のひとつ、『コイコワレ』を読み終えました。螺旋プロジェクト作品は「対立」をテーマに物語が進行します。時代を超えて大きな耳をもつ山族と蒼い目をした海族が争いを繰り返していくのです。
『コイコワレ』は太平洋戦争の中、二人の女の子が繰り広げる「争い」の物語です。
東京から子供たちが学童疎開で宮城県のお寺に着きました。東京から来たひとりの蒼い目女の子は初めて会ったにもかかわらずひとりの地元の黒い目の女の子に嫌悪感を抱きます。その地元の女の子も突然東京から来て目を合わせた女の子に強い敵意を感じています。
ある日地元の女の子は憎しみのあまり、一線を超えた仕打ちを東京の女の子にぶつけてしまいます。しかし周りの大人たちに温かく見守られながら二人は成長し、お別れの日がやってきます。
「敵意」とか「嫌悪」とかの二人の激しい気持ちは、誰の心にもあるかもしれないと私は思います。二人の心の葛藤や極端な行動がもし自分だったら、自分の子供だったらと置き換えて読み進めていました。
『コイコワレ』のあらすじとNovelsm an Comment <感想>を記します。読まれた方がそれぞれの思いを巡らせることになるであろう結末にも注目して欲しいと思います。
螺旋プロジェクト
螺旋プロジェクトは8組9名の作家が、あるルールのもと古代から未来までの日本を舞台に、ふたつの一族が対立する歴史を描くシリーズです。2019年に中央公論新社の文芸誌「小説BOC」が行った競作企画です。螺旋プロジェクトシリーズ書の巻頭と巻末に載っている、螺旋エピグラフ(定義)の一部を引用します。
「これはたぶん、貝殻、貝」
「海のものがどうして山にあるの?海と山はまざらないんじゃないの」
「まざるとかまざらないじゃなくて、ぶつかるの。わたしたちは海のひとと会えば、衝突するようになっているからね」
海と山、両者を自在に行き来する唯一の者、争いを見届ける者がいつかそう語ったという。
『コイコワレ』 あらすじ
疎開
東京から学童集団疎開でやってきた女の子、浜野清子は宮城県の山あいにある寺で暮らすことになりました。寺の本堂で清子は無数の棘が肌をさすくらい嫌悪する感覚に襲われて外を見ました。黒い大きな目をした少女が立っています。清子がリツと目が合った瞬間、清子の嫌悪感は敵意に変わっています。
清子と目が合ったのはリツという地元の女の子です。身寄りがなくこの寺に身を置いて暮らしています。リツは蒼い目をした清子と目が合った時、体中の体毛が逆立つほど憎悪の感情に溢れていました。
二人は互いに自分が抱いたのと同じ感情を相手も抱いたことをわかっています。
源助
清子は夜になると寺の裏手にまわって月明かりで教科書を読んでいます。そこには寺の養子、那須野健二郎も夜毎来ます。二人は色々な話しをしながら過ごします。一方リツは健二郎と清子が仲良くなることを心よく思いません。健二郎はリツに清子と友達なれと勧めますが、リツはできるわけがないと思っています。
リツは清子に対する怒りを炭焼の源助にぶつけます。源助は親のように悩みを聞いてやさしく受け入れます。源助の片方の目が清子と同じ色であることを見つけてリツは理由を聞きますが、源助は無言です。
ある夜源助が寺の裏で勉強している清子の所にやってきました。源助はすでに清子の名前を知っていました。源助は清子にリツとのことで気になる言葉を残して寺を去ります。
首飾り
清子はリツとの争いで命を落としそうになりながら九死に一生を得ます。この事件以来、清子は何事も積極的に生きようとします。女学校に入学するための勉強に本腰を入れ、国民学校での鍛錬も精一杯取り組みます。強くなった清子ですが、疎開先に母親が来た時は母の胸で号泣してしまいます。母にもらった宝物の首飾りをなくしてしまったことも全部打ち明けると母親は言います。「首飾りは、守ることができた時に壊れるものなの」
リツはあやまちに対して清子にどうすれば償うことができるのか、真剣に考えています。源助は囲炉裏の灰で蝸牛模様を描いてヒントを示します。リツがその意味を理解できたのは、清子が東京に戻る直前でした。
疎開の最終日、リツは清子たちが東京に帰る汽車の駅に向かっています。握りしめているのは。。
『コイコワレ』 Novelsman Comment <感想>
上品で美しく、蒼い目をした清子はリツを前にすると人格が変わるのでしょう。デフォルメされて怒りに満ちた顔の清子が目に浮かびます。また行き場のない嫌悪を顔に出すリツは、刺すような視線で清子を睨みつけていたに違いありません。ただし人には「理性」があるので、現実には怒りだけが突出することはないと思います。
ではこの「理性」、どこまで怒りや悲しみを制御してくれるのでしょう。偏った考えの男性が施設にいるたくさんの社会的弱者を殺した事件はまだ記憶にあります。最近では、自分の恨みを晴らすために一国の首相に銃を向けて命を奪う事件が起こってしまいました。
想像を越える殺人事件に、人間の「理性」は極端な心の動きを制御してくれているのでしょうか。私自身は同じことを起こさない、と言い切れるのでしょうか。などと考えながら読み終えました。
小説は少々強引に海山伝説テーマに寄せているように感じましたが、いろいろ考えながら読みました。螺旋プロジェクトの他の作品が楽しみです。
最後まで私のブログを読んでいただきありがとうございました。
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