螺旋プロジェクト作品の一冊 『死にがいを求めて生きているの』朝井リョウを読み終えました。小説後半のたたみかけていく進行は圧巻です。私は夜を徹して一気読みしてしまいました。
平成の世の中、棒倒しや高さを競う組体操は姿を消します。小中学校では成績順位の掲示はもうありません。一方で、他人より先を行こうと考える人と他人と協調しようと考える人がいることに時代の差はありません。
螺旋プロジェクトの共通テーマは「対立」です。『死にがいを求めて生きている』は主人公が友人たちと交流して生きがいを求めて葛藤する中で平成の「対立」を描いていきます。特に後半は小説に入り込むと思います、おもしろいです!
『死にがいを求めて生きている』の主な登場人物とNovelsman Comment <感想>を記します。このブログが本書を読まれるきっかけになれば嬉しく思います。
螺旋プロジェクト
古代から未来までの日本を舞台に、海族と山族が対立する歴史を描くことを共通テーマにしたシリーズです。中央公論新社の文芸誌「小説BOC」による競作企画で 8組9名の作家が参加しています。
螺旋プロジェクトについてあらためて紹介したいと考えています
目次
『死にがいを求めて生きている』 主な登場人物
堀北雄介
堀北雄介は小さい時から人の目を気にせず注目されることに突き進む性格です。北大に進学した雄介は、ある時は北大生の伝統を復活させよう活動に没頭しています。またある時は自衛隊に入隊して国を守ると本気で言い出します。テレビに映る北大祭の締め行事では、寮の学生自治を求めてたった一人で教養棟の屋根の上で寮歌を歌っています。危ない行動派の雄介が、立ち入り禁止の島に突入することが目的のグループに参加します。。
南水智也
南水智也は小学校の時から雄介のことをよく知っている親友です。自分の立ち位置を意識して行動する雄介と反対に、智也はいつも冷静に自分と周りを見ています。北大の友人との飲み会で北大の寮の運営についての話題の時智也は言いました。「集団の中には少しずつ意見の違う人がいる。そういう集団の中にあるグラデーションを見逃さないようにしたいなと思う」
智也と雄介は大学に入って学部が分かれてもお互いを意識して友情が途切れることはありません。
前田一洋
前田一洋は小学生の時北海道に引っ越してきました。偶然雄介と智也の間の席に座ることになった一洋は、大好きな漫画で気が合って雄介、智也と親しくしています。一洋は目立ちたがり屋の雄介と、何事も受け入れている智也の性格の違いを知れば知るほど、どうして二人が親友なのか分からなくなっています。
安藤与志樹
北大に通う安藤与志樹は北大RAVERSの発起人です。RAVERSは音楽に合わせて自分の思いを主張しながら街をねり歩く「レイブ」活動のグループです。与志樹は若者の討論番組に出演した北大の仲間と交流しています。仲間には北大生の伝統を戻そうと息巻く雄介やNPO法人を運営する波多野めぐみ、雄介の紹介で智也もいます。
ある日与志樹は雄介とラーメン屋で会っています。与志樹はRAVERS活動を止めてめぐみのNPOを手伝っています。そこで雄介は、北大を退学して自衛隊に入ると言います。自分と似通った考え方をしている雄介が想像もしなかった方向に進もうとしていることで自分自身が混乱してしまっている与志樹は、智也に会って聞きます。「智也君の生きがいって何なの」 智也の返事は与志樹にとって意外な言葉でした。。
北大祭の最終日、与志樹はめぐみと一緒に北大祭を締める伝統行事に参加しています。年に一度の大合唱、ストームが始まった時、与志樹は教養棟の屋根の上で大きな声で一人寮歌を歌う雄介の姿をみて驚きます。与志樹が見上げるすぐ近くでは、智也もまた雄介を見つめているのでした。。
Novelsman Comment 1
安藤与志樹の章あたりから螺旋プロジェクトの共通テーマ、山族と海族が「対立」する構図が明らかになっていきます。
私自身は山族系思考回路のようです。読みながら登場人物の熱い行動に若かった頃の自分を重ねていました。物語の後半、我が山族とそれに対する海族の行動に大きな展開があります!
弓削晃久
舞台は東京です。世間は海山伝説が話題になって関東大学教授の南水智則氏が編纂した「海山伝説のすべて」がベストセラーになるほどに盛り上がっています。そんな中制作会社社員弓削晃久は、テレビ局プロデューサーから提案された仕事に興味を持っています。瀬戸内海の今も立ち入り禁止の島「嬉泉島」を取材する仕事です。
弓削は会社に出入りするバイト、前田一洋に「嬉泉島」関連情報の収集を依頼します。一洋から連絡がありました。堀北雄介という男が北大をやめて島に行くらしい、という情報です。加えて、堀北雄介の友人、南水智也という男が嬉泉島に入り込む準備をする東京のアジトを訪問する、という情報を弓削に伝えます。
争いの起源は原始の時代に起こった山族と海族の争い、と説く海山伝説発祥の地名「鬼仙島」。今も立ち入り禁止の島「嬉泉島」。奇妙に一致するキーワードに弓削の心が奮い立ち、弓削はアジトに向かいます。
弓削と智也はアジトをしきる長老に会っています。長老との話しを終えて小部屋に入ると、目の前に堀北雄介がいます。南水智也は雄介に本音で話します、その時。。。
Novelsman Comment 2
この後はどう記しても明らかにネタバレになります。小説をお読みください、引き込まれていくと思います!
『死にがいを求めて生きているの』 Novelsman Comment<感想>
平成の世
学歴があれば将来をある程度保証されていると思える時代は終わっていると私は思います。しかし昭和30年代に生まれた私は、物語の主人公雄介のような人間は輝いていたと記憶しています。政治運動や暴走族といった派手に行動する人は限られていましたが、何かしら熱くなった経験を持っている人は少なくないと思います。
そんな私は、熱く語って不器用ながらがむしゃらに行動する雄介、与志樹と弓削を応援しながら読みました。今の若者が平成の世で生きることは辛いことなのでしょうか?若者でない私には忸怩たる想いが残ります。。
私の視点ながら、作者には登場人物が「生きがい」に振り回されて悩んでいる「現実」をもっと深掘りしてほしかったなぁと思いました。なぜなら平成、今を生きる人たちの大変さは、昭和の時代の大変さとは違うことを強く訴えることができると私は考えるからです。個人的見解です、おもしろい小説です!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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