『クジラアタマの王様』伊坂幸太郎|夢が現実を切り拓きます

題名に惹かれて『クジラアタマの王様』を読みました。著者は伊坂幸太郎氏、2020年に今は亡き三浦春馬氏主演の「アイネクライネナハトムジーク」の原作者であることを後から知りました。

 『クジラアタマの王様』は「現実社会」と「創造世界」の間を読者に行ったり来たりさせる物語です。主人公は家族を大切にして世の中の流れに逆らわずに生きる幸せな会社員です。同時に主人公は夢世界で勇敢に戦う戦士として登場します。そして最後に私達を爽快な結末の場面に連れていってくれるSF小説です。

 『クジラアタマの王様』のあらすじとNovelsman Comment<感想>を記します。ぜひお楽しみください。 

『クジラアタマの王様』 あらすじ

夢で逢えたら

製菓会社の広報部員、岸は会社の人事にふりまわされながらも幸せな日々を過ごしています。人気ダンスグループのメンバー、小沢ヒジリがテレビで口走ったことで岸の会社の新商品が大ヒットします。ところがこの商品に画鋲が入っていたとクレームがあり、大騒動になりますが狂言であることがわかり収束します。

 岸はこの商品クレームを通して知り合った都議会議員、池野内征爾と会います。池野内は岸を夢の世界で知っていると言いますが、岸には何のことか理解できません。しかし実際岸と池野内は過去に、金沢の火災現場で一命をとりとめた共通の経験をもっていることがわかりました。

さらに池野内は岸に、小沢ヒジリも金沢の火災で命拾いした経験を持っている、小沢ヒジリに会って確認して欲しいと依頼します。池野内の依頼をうけて岸は、小沢ヒジリのサイン会にでかけて池野内のメモを見せて声掛けしました。後日小沢ヒジリが突然会社に来ます。目的は岸にあうことでした。

小沢ヒジリは岸や池野内同様に金沢の火災で命拾いしていました。3人に共通しているのは火災で命拾いした経験ともうひとつ、夢のなかでハシビロコウをみた覚えがあることなのです。

<Novelsman Comment>

 小説のあちこちに、絵本のようなイラストページがあります。本書あとがきの説明によると、挿入されている絵も小説の一部で、「コミックパート」と名付けられています。私は小説内容に沿って想像を膨らませながら「コミックパート」を読んでいました。新しい試みとのこと、今後コミックがもっと大胆に小説と合体した作品が現れることを期待したいと思います。

戦うことは生きること

こうして3人はそれぞれが現実の中でアクシデントに遭遇すると、夢の中で戦った結果が反映されることに気づき始めます。夢の中で敵を倒すと現実でうまく事が運び、逆に敵に倒される夢を見ると現実でも痛い目にあうことになるのです。岸はこの事を感じながらどう理解していいのかわからないままサラリーマン生活を続けます。

 15年後、世の中は鳥インフルエンザが流行して混乱しています。岸は自分の家族が感染して町の感染源扱いされている事態の中で池野内が暴漢に襲われるニュースを目にします。不安と心配に潰されそうになる中で岸は自分を失って気絶してしまい夢を見ます。その夢の中で岸は大きな鳥に打ちのめされてしまうのです。

 気が付いた時、岸はある場所に向かっていました。出世して厚生労働大臣になっている池野内が、岸に託したメッセージを実行する時が来ているようです。

 ある場所に到着するとすぐ岸の戦いは始まりました。岸は無事に苦難を克服することができるのでしょうか。それは夢で?それとも現実で?

『クジラアタマの王様』 Novelsman Comment <感想>

 昼はサラリーマン、夜は戦士という二つの顔を持つ主人公。周りの力を借りて必死になって大きな敵と戦っている夜の岸に、ガンバレ、と念じながら読んでいました。

 そして私は、『クジラアタマの王様』を2021年に大ヒットした映画「竜とそばかすの姫」とラップさせながら楽しみました。「竜とそばかすの姫」に登場するすずの分身ベルは「As」、アバターです。ベルは仮想世界の中で別「人格」扱いですが、物事の判断はすずに任されます。

 『クジラアタマの王様』では、岸の昼のサラリーマンと夜の戦士の接点はあくまでも夢です。夢の中では岸の判断というより「見えない力」が岸の戦いをリードしていきます。この「見えない力」が岸と周りの現実に直接影響して進行する内容がとても面白く、『クジラアタマの王様』の世界に引き込まれていました。

 巻末の解説中に、『クジラアタマの王様』は画期的な「ゲーム小説」と称賛されています。その意味についてはともかく、読んでいて先を早くしりたくなる内容の一冊です。私は伊坂幸太郎氏の著作と映画にもっと触れてみようと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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