『天使も怪物も眠る夜』吉田篤弘|螺旋プロジェクトー美しい結末です

螺旋プロジェクトシリーズの一冊、『天使も怪物も眠る夜』を読みました。たくさんの人物が登場し、近未来の東京を舞台に場面が変わっていきます。章が進むにつれて人物と場面がつながって楽しく読めるSF小説です。 

螺旋プロジェクトテーマは人間同士の「対立」です。それゆえシリーズの他の作品は争いを描く場面が多く出てきます。しかし本書はちょっと違いました。『天使も怪物も眠る夜』はプロジェクトの最終章を飾る作品です。未来の人間世界がこうあってほしい、と思いながら読み終えました。一言でいうとハッピーエンドです。

『天使も怪物も眠る夜』の要点とNovelsman Comment<感想>を記します。美しい情景の結末は一読の価値があると思います。吉田篤弘氏が描く「美しい」未来をみなさんと共有できれば嬉しいです。

『天使も怪物も眠る夜』 登場人物の役割

小説の舞台

2095年の東京です。慢性的な「不眠の都」として名高い東京では面白い本を読むことはできません。当局が眠りを妨害するとして発売禁止にしてしまうのです。そんな東京で睡眠ビジネスが隆盛です。<ドリーム8>社と<ニモ>社が睡眠薬の開発競争を繰り広げています。

トオル

 元腹話術師だったトオルは人形に逃げられてその日暮らしの毎日です。トオルは「眠り姫の寝台」という映画ポスターに写った女の視線が忘れられません。トオルは毎日そのポスター捜し回っています。

フタミ・ナツメ

 探偵事務所に勤めるナツメは不眠症に悩まされています。不眠の癒しの場として個室で両性具有者ドゥーブルが添い寝して睡眠を誘導するダークルームに通っています。ナツメはダークルーム<クモリゾラ>でドゥーブルが話す<姫>の物語「眠り姫の寝台」に興味をそそられます

マユズミ・サイジロウ

「面白くない小説」を書くマユズミ・サイジロウは人気作家です。「不眠の都」東京でマユズミの小説は人々を眠気を誘う睡眠導入アイテムとして重宝されています。ある日、フタミ・ナツメという人から「眠り姫の寝台」という書物が届きます。作者は黛犀二郎とあります。しかしマユズミはこの本を書いた覚えはありません。

フタミ・シュウ

 フタミ・シュウは<ドリーム8>社に勤務するスタッフです。覚醒用タブレット新製品の開発指示を受けて、情報収集を開始します。新プロジェクトのコードネームは「王子」、<ドリーム8>社の将来を左右する重要なプロジェクトです。

キリバヤシ・フウ

 キリバヤシ・フウは<ドリーム8>オストアンデル課の主任です。オストアンデル課はシュウが新しく勤務するオフィスの5階にあります。フウはシュウと食事をしたり映画を見たりしています。フウはシュウ情報を交換しながら仲良くなりたいと思っているようです。

タニグチ・キョウコ

谷口さんは<ドリーム8>資料館のスタッフです。シュウは「王子」についてさまざまな相談を持ちかけます。シュウの探し物「王子」は、グリム童話「いばら姫(眠れる森の美女)」がヒントかもしれないと聞いたシュウは資料館に通います。谷口さんはシュウの依頼にできるかぎり応えようとしています。

タドコロ

 田所は、<ニモ>社の研究者です。<ニモ>社は<ドリーム8>社が新しい睡眠覚醒薬を開発しようとしていることや、その担当がシュウであることをすでに把握しています。田所はシュウの感覚が予想に反して鈍感であることに驚きながら新薬の情報を得るために追跡を続けています。

モビー・ディック(白鯨)

 巨大な白いクジラが東京湾に入り込んだとラジオのDJが繰り返し伝えています。白いクジラは、どこかで飲み込んで腹の中に蓄えていた8万5千冊の書物を海に向けて、街に向けて、人々に向けて水と一緒に吐き出しています。。

八人目の王子

 コーヒーバーである男は店主サルに話しています。バーの壁に張ってある「眠り姫の寝台」のポスターを見ながら男は、「7人は姫を目覚めさせることができないけれど8人目の王子が物語を進めていくのだ」、と。

物語は「王子」が活躍して美しい結末にむかいます。。

『天使も怪物も眠る夜』 Novelsman Comment <感想>

美しい結末

 近未来のおとぎ話に入り込んでいました。添い寝つき睡眠個室、眠りを覚ます睡眠覚醒剤と今はまだないけれどあってもおかしくないことに納得している私がいます。そうかと思うとピアノが空から飛んできたり、クジラが本を噴き出したりと、絵本になりそうな空想場面が私を楽しませてくれました。

そして結末です。SF小説っぽい人工知能や宇宙が支配する未来図の結末ではない、人間世界のエンディングに感動を覚えました。自分の周りも、世界もこうありたいなと思わせてくれる最終章、読み応えありです。

螺旋プロジェクト

 8組9名の作家があるルールのもと古代から未来までの日本を舞台に、ふたつの一族が対立する歴史を描くシリーズです。2019年に中央公論新社の文芸誌「小説BOC」が行った競作企画です。

 『天使も怪物も眠る夜』にも螺旋プロジェクトのテーマ、蒼い目をした人も大きい耳を持つ人もしっかり登場しています。他の作品から引き継いだ表現もあってずっと昔から争い続けていることがわかります。しかし本書では人と人が正面から争う場面はまったくありません。むしろ争いを止めようとしてお互いが協力しています。

 そして物語『天使も怪物も眠る夜』の、螺旋プロジェクトテーマの結末が読者を迎えてくれます。人間に欲望がある限り人間同士の争いはこれから先もなくならない気がします。人間が創り出す技術が、争いを起こすのでなくお互いが協力する社会になっていくことを祈るばかりです。

あらためてシリーズ全体について紹介したいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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