勇ましい題名に惹かれて、冒険小説『復活するはわれにあり』を読了しました。作品について前もって調べることなく読み始めて、一気に読み終えてしまいました。銃撃戦や火災シーンは情景がはっきり頭に浮かんで、これぞ冒険小説と納得していました。同時に、文中で「新資本主義」とか「金融工学」という表現を使って、お金がお金を増やしていく仕組みの危うさをワンマン経営者視点でするどく突いている言葉が散りばめられています。バブル経済崩壊とリーマンショック後の日本経済の混乱を現場で経験している世代のひとりとして興味深く読むことができました。
正直なところ説明や専門用語が多いと感じました。また仮想現実と現実の接点に強引過ぎる展開があるとも思います。好みの分かれるところではありますが、10年前発刊とは信じ難い斬新な内容であったこともお伝えしたいと思います。
あらすじとNovelsman Comment<感想>を記します。冒険小説の佳作としておすすめします。
目次
『復活するするはわれにあり』あらすじ
『復活1』手のひらの蠍
堅実に事業を展開している権藤グループ二代目オーナー権藤は腫瘍に冒されて余命2年を宣告されています。既に下半身は麻痺して車椅子にを使う生活を強いられていますが、引退までワンマン経営を続ける決意です。
権藤はプロジェクトを任せている稲原と会うためにやってきたベトナムのホテルで誘拐されます。連れてこられた部屋で権藤は投資会社を統括しているという「ジェイゾ」と名乗る男の前にいます。ジェイゾはハイテクの車椅子に載り、HUD(ヘッドアップディスプレイ)をかぶった得体の知れない男です。部屋の水槽には何十匹も蠍がうごめいています。
ジェイゾは蠍の水槽に肱まで突っ込んで一匹捕まえますが、蠍はジェイゾを噛もうとはしません。「たとえ蠍であってもこちらが敵意を持たなければ相手も敵意を持つことはありません。」また金融工学を駆使して経済的な自由を尊重すると断言するジェイゾは、南シナ海の海洋油田基地でさまざまな利害がぶつかっていることを説明します。
権藤は海洋油田に反対する活動船、南シナ海号で香港までいくことを強要されるのです。
<Novelsman Comment>
場当たりで行動しながらも迷うことなく自分の判断で行動できる権藤。この自己中心的考え方と判断力がこれからの航海で大暴れする伏線になっています。もし権藤が私なら完全におじけずいているだろうと、権藤を羨ましく思いながら読んでいました。もっとも、私が権藤であれば自分でベトナムに来ていないと思いますが。
『復活2』 南シナ海号
ジェイゾ手配のハイテク車椅子「サイボイド」で権藤は南シナ海号に乗り込みました。南シナ海号には権藤が探していた稲原も乗っています。出航して数時間後南シナ海号がテロリストにハイジャックされてしまいます。ハイジャックされてから権藤は危険にさらされながら暴れまわります。
人質救出が目的のはずのヘリコプターから手榴弾が船に投げられました。権藤は感覚のない左手で手榴弾を海に落として危機を脱します。そして無差別に攻撃してくるヘリコプターを自爆させました。権藤はサイボイドに装着されている人工視覚を利用して、人質の女の子、スワンを命懸けで守っているのでした。
テロリスト達にハイジャックされた南シナ海号はあと数時間で目的の海底油田基地に到着します。台風が近づいていますが、南シナ海号は台風を避けることなく暴風圏に突っ込んで行きます。
<Novelsman Comment>
物語は大詰めに向かって盛り上がりますが、権藤の活躍はとてもよみごたえがあります。誰が味方でどちらが敵か、もポイントですがなにより車椅子をフルに活用した戦闘シーンがとても面白かったです。
『復活3』 ディープホリゾント・ドラゴン
嵐の中で南シナ海号が海底油田基地に向かって進む中、追ってきた巡視艇の40ミリ機関砲の火が噴きます。
南シナ海号の人質の抵抗むなしくひとり、またひとりと命をおとしていきます。巡視艇が再攻撃を始めようとした時権藤は痛みを感じない左手でライフルを挟んで海に浮かぶ油の入ったドラム缶にむけて撃ちました。轟音が響いて火柱が噴きあがり巡視艇は後退し、攻撃してくることはありませんでした。
巡視艇との激しい戦闘で南シナ海号は沈没しました。権藤は漁船団に助けられてテロリストの目的地、海底油田基地ディープホリゾント・ドラゴンに近づいていきます。その時、目の前に巨大な戦艦が姿を現してゆく手を遮ります。漁船団はしかたなく権藤の人工視覚を頼りに「機雷による危険海域」を通過することにします。
なんとか危険海域をぬけたところにディープホリゾント・ドラゴンは威容をさらしていました。
そこには南シナ海号をハイジャックしたテロリストもいました。テロリストはディープホリゾント・ドラゴンを破壊しようとしています。権藤はディープホリゾント・ドラゴンは破壊してはならないと考えてテロリストとのにらみ合いになります。
いったいどんな結末が。。
『復活するはわれにあり』 Novelsman Comment <感想>
車椅子の主人公
『復活するはわれにあり』の主人公権藤は車椅子なしでは行動できない半身不随の男です。また銃撃や爆発の場面が頻繁に登場するハードボイルド小説でもあります。車椅子の主人公とハードボイルド小説の組み合わせ、どうなるのかと要らぬ心配をしていました。読み終えてみると、逆に車椅子の権藤が立ち回ることで情景の緊張感が高まって集中して読んでいたように思います。
小説の中で権藤は、車椅子で行動するから他人より劣っているというような否定的な言葉は一切吐きません。普通にふるまい、銃撃戦では車椅子をフルに活用して敵から銃弾を避けていきます。
読み終えて、車椅子の人も、普通に動いている私も、容姿が少し違うだけだと改めて気づきました。人として生きていることになんら変わりはありません。自分が健常者であることに甘えていること知らしめてくれた作者と『復活するはわれにあり』に感謝しようと思います。
サイボーグ権藤
先進的車椅子「サイボイド」に載る権藤の生体情報がサーバーを介してサイボーグ権藤と同期され、ジェイゾが権藤を管理する場面があります。ネタバレを含みますので詳説しませんが、サイボーグ権藤ではなくて生身の権藤が大いに活躍しているのがこの小説『復活するはわれにあり』です。
私は先進的AIやロボット技術が「人間の質」を変えていくことに不安を感じています。ビルや空港ではすでにロボットが巡回して不審者の発見に活躍しています。株式のオンライン売買ではAIの判断が欠かせません。近い将来、私たちはいま人間が行っている多くのことをロボットや人工知能に任せていることでしょう。
主人公は無感情を装いながら命がけで人を助け、人と争い、美しい女性に惹かれます。私達人間はサイボーグやロボット相手ではなく、人と人が接して感情をぶつけ合うことでお互いが輝いていく世界であり続けることを望んでやみません。
山田正紀さんのデス・レターについてまとめています。こちらもどうぞ
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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