行ったことのない南極にいるような気分になります
小説『到達不能極』は、南極の基地に眠る秘密をめぐって争いや葛藤が生まれる物語です。登場人物の行手を阻む危機に見舞われる中で、「二人」の絆が難局を切り抜ける扉を開いていきます。
厳しい自然環境のもとで人間が生きていくに困難な場所、南極を理解できたような気になりました。あわせて70年を超える時間軸の設定に戸惑うことなく楽しむことができました。納得できる一冊と思います。
Novelsmanは、もし『到達不能極』が演劇上演されたら、と想像して内容を整理してみました。舞台でなく映像化しても見せ場の多い作品になると思います。これを次の読書の参考にしていただけたら嬉しいです。
<ネタバレあります、ご留意お願いします>
目次
演目:『到達不能極』
第一幕 「極号作戦」発動
1945年、日本帝国海軍ペナン島駐留部隊が所有する大型機、一式陸上攻撃機が飛び立とうとしています。ドイツ人科学者のハインツ・エーデルシュタイン博士と娘ロッテ嬢を南極に送り届ける「極号作戦」発動です。乗員の一人帝国海軍兵曹星野信之は南極に向かう機内でロッテ嬢が特別な力を持つ女性であることを知ります。
南極ドイツ軍基地での争いによりロッテは瀕死の重傷を負います。エーデルシュタイン博士は娘ロッテの意識を「冬眠」させることを決心します。ロッテは形を変えて南極に残されてしまうのです。
<『到達不能極』 Novelsman Comment 1>
注目は南極のドイツ軍基地から星野たちが脱出する場面です。敵が接近して銃声が響く中で、愛しい人を残して去る、離れなければならない。。舞台での切迫感どころではない状況が、地球のどこかで発生している戦争で実際に起こっていることを容易に想像できます。一日も早く戦争のない世の中になることを祈るばかりです。
ユダヤ人の血が混じっているだけで命の保証がなくなる旧ナチスドイツの政策。その時代に同盟を組んでいた日本でも同様の‘洗脳‘を受けていたことは小説でも触れていますし、実際に聞いたことがあります。人権平等を貫く人間でありたいと思いながらももし自分がその場にいたら、と考えるとゾッとしました。。
第二幕 核ミサイル爆発
1958年、アメリカ軍が南インド洋から南極に向けて核爆弾を発射しました。高高度核実験とされている「アーガス作戦」の真相は核実験ではありませんでした。アメリカ軍は他国への科学技術流出を防ぐために南極の旧ナチスドイツ軍基地に核爆弾を発射したのです。しかし核爆弾はなぜか高高度の空中で爆発し、アメリカ軍の目的は達成できませんでした。星野はロッテの魂が南極にいると感じていますが、その確信を得ることができないままその場を去ることになります。
<『到達不能極』 Novelsman Comment 2>
印象的な場面は、南極の基地に来た星野がロッテの魂を感じていながらもその基地が爆破されるくだりです。星野の目の前でロッテの魂がいるであろう南極の基地が氷の中で破壊されていきます。。自分では何もできない歯がゆさと無念さ。舞台や映像ではどのように表現されるのでしょう。
星野が受けとった信号はロッテの魂からのメッセージだったのでしょうか。魂は爆破されてしまったのでしょうか。舞台の脚本をもし私が担当するならば、想像はつくけれどそれを確信できない状態、ロッテを登場させない演出をすると思います。結末の想像はついておられるとは思いますが。。
南極の過酷な環境をわかりやすく表現されています。私はまるで南極にいるような気持ちで時間を忘れて物語に没頭していました。
第三幕 絶体絶命
2018年、高齢の星野信之を含む南極旅行チャーター機が突然通信不能となり大緊急着陸しました。飛行機が不時着したのは「到達不能極基地」という名の基地でした。星野老人はこの基地が70年前の旧ナチスドイツ軍南極基地であることをわかっています。
到達不能基地に入ると基地の小型原子炉がメルトダウンを始めました。乗客と隊員は絶体絶命の危機にさらされます。そして星野老人はロッテの魂を感じています。ロッテと星野老人の絆はこのピンチを救うことができるのでしょうか。
<『到達不能極』 Novelsman Comment 3>
最終章、詳しく述べることは致しません。目頭を押さえるエンディング必至です。
現代の科学技術、中でも私たちに身近な人工知能(AI)はどんどん人間に近づいているようです。小説でもロッテは科学技術の力で生き残って私達に人間のすばらしさを伝えてくれています。人が人の作った機械にと共生する世界、どんな景色になっていくのでしょうか。私にはまだ想像もつきません。。
『到達不能極』 Novelsman Note
『到達不能極』は優秀なミステリー小説から選ばれる江戸川乱歩賞の受賞作品です。SFの設定が少々ご都合主義的と感じましたが、一読者として謎解きの展開よりよりスケールとロマンスがすばらしくて感動しました。斉藤詠一氏の別の作品に触れてみたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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