暗礁 黒川博行 |あらすじ&感想 疫病神シリーズ 第3作

暴力団二蝶会の桑原保彦は運送業者と警察の癒着をネタに運送会社から「シノギ(収入源)」を得ることを計画しています。桑原から運送業者との接待麻雀の代打ちに駆り出された建設コンサルタント二宮は、これを端緒に桑原とコンビを組んでシノギ獲得のために動き回ります。疫病神コンビの追跡は暗礁に乗り上げそうになりますが、何度も危ない目に遭いながらも二人は目的達成にむけて突き進むのです。。

 疫病神シリーズ第三作「暗礁」は作者黒川博行氏が2005年(平成17年)に発表した作品です。小説に詳しく述べているヤクザ同志の抗争は現実にありそうで、ヤクザも必死で生きているということを感じるだけでも一読に値すると思います。あらすじとNovelsmanコメントを記します。感想とか共有できるとうれしいですね。

「暗礁」あらすじ

奈良県警の警察官と賭け麻雀

大阪ミナミに事務所を借りている二宮啓之は建設コンサルタントとしてなんとか生計を立てています。建設コンサルタントとは本来建築工事や解体工事の仲介斡旋ながら、二宮は収入の多くを「サバキ」収入で得ています。ビルや自治体開発の建設案件には入札妨害や騒音などで難癖をつけて金銭を強要する暴力団やその関連企業がまとわりつきます。「サバキ」とはそのまとわりつく暴力団(=ヤクザ)をヤクザに依頼して抑える前捌きのことで、二宮は建設会社からサバキの依頼を受けると適当な組筋を斡旋し、その仲介料で事務所を経営しています。しかし平成23年春に施行された大阪府暴力団排除条例は二宮の収入源を直撃し、稼ぎは激減しているのです。

 ある日二宮はサバキを依頼している暴力団二蝶会の桑原保彦から運送会社と警察が打つ接待麻雀の代打ちを頼まれます。桑原の依頼を受けて二宮は接待麻雀に臨み、トップで勝って桑原に抜かれるも60万円の臨時収入を得ます。麻雀の数日後に奈良県警が二宮を訪れて接待麻雀のことについて聞かれ、麻雀に勝ったことを警察に話してしまいます。「あんたを賭博罪で引くのはいつでもできる」と二宮を不安にさせます。

 桑原と会って二宮は麻雀の背景を知ります。二宮と卓を囲んだ警察官は奈良県警に内偵されていること、運送会社東西急便は二蝶会の本家神戸川坂会にヤクザとのもめごと解決依頼をしていること、そして今回東西急便は奈良のトラックターミナル周辺路の右折禁止解除を目的に警察に便宜を図ってもらおうとしていることを知り、桑原に利用されたあぶない麻雀だったことを理解します。さらに桑原と一緒にいるときに桑原が二人を尾行していたヤクザを痛めつけてしまい、悪徳刑事中川の助けを借りて場を収めてもらいました。こうして疫病神コンビは真相を追いながらシノギ集めに突き進みます。

放火犯人二宮啓之

 桑原の指示で行った奈良東西急便トラックターミナルの偵察のあと二宮は身に覚えなく筋者から暴行を受けて免許証を取られてしまいます。桑原と二宮は免許証を取り戻すために奈良のトラックターミナルに向かい、二宮が道具箱の中から免許証を見つけた直後に奈良東西急便トラックターミナルで不審火が発生し二宮の指紋のついた道具箱が焼け跡付近で発見されます。こうして二人は気づきます、二宮の免許証が奪われたのは二宮をトラックターミナルの放火犯人に仕立て上げるためだったのです。

 テレビニュースで奈良東西急便トラックターミナルの火災は放火の疑いがあると報じられる中、桑原・二宮の犯人追求は進んでいませんでしたが、悪徳刑事中川の力添えで二宮を尾行して暴行を加えた二人の正体が割れます。川坂会の三次団体花鍛冶組の池崎博と東和樹でした。桑原と二宮は放火の犯人を見つけてシノギを得るために本格的に動き回ります。

大阪中の極道から狙われる懸賞首

 二宮は何者かに命を狙われますがなんとか逃げ切ります。二宮は自分が防火犯とて奈良県警からマークされているだけでなく、だれかが糸を引いて花鍛冶組、天海組や桐間組といった大阪中の極道から狙われている身であることを知ります。そんなことにひるむことなく二宮は桑原と真相を追い続けていきます。

 奈良東西急便の贈賄が絡む奈良県警の汚職が新聞や雑誌で明るみにでて、二宮が接待麻雀をした相手、奈良県警課長柴田曉が自殺し県警暴力団対策調査官青木康祐が失踪して事件は暗礁に乗り上げそうになります。ここで桑原は悪徳刑事中川から、失踪した奈良県警の青木、二宮に暴行を加えた花鍛冶組の池崎と東の3人が高跳びしている情報を得て二人は沖縄に飛びます。

沖縄の粟国島から大阪へ

 沖縄についた桑原・二宮は高跳びした三人が沖縄の離島に潜伏していることを突き止めて粟国島の民宿にむかいます。ところが粟国島の港で高跳びしている花鍛冶組の池崎と東の待ち伏せに遭います。桑原は飛び道具をもった池崎と東に挑み、傷を負いながらも昏倒させます。傷を負った桑原と二宮は休むことなく奈良県警の青木を追い詰めて、持っていた手荷物を奪います。青木の荷物は宝の山で、シノギのネタがたくさん詰まっていたのでした。

 大阪に戻った桑原・二宮コンビは奈良東西急便のトラックターミナル放火事件、警察との癒着、暴力団との駆け引きを操っているのが奈良東西急便副社長の落合である裏付けを得て落合本人からシノギを得ることになり集金に動きます。

桑原と二宮が落合と約束した場所にいくと、そこに待っていたのは落合でも東西急便の社員でもなく、神戸川坂組本家筋の桜花連合理事長、田端藤市でした。桑原は暴れることができない絶体絶命のピンチに陥ります。ヤクザ同志の争いや運送業者との癒着は解決するのでしょうか。桑原はこの難局をどのようにのりこえるのでしょうか。そして桑原と二宮にとって一番大切なシノギは。。

暗礁 感想<Novelsman Comment>

「警察と企業の癒着」「暴力団と企業の関係」といった裏社会のキーワードを聞くと、重たくてくすんだ響きを感じます。著者黒川博行氏は「暗礁」の中で腐敗した企業や警察内部のドロドロした体質を桑原・二宮コンビのシノギというフィルターを通して明快に暴き出していきます。イケイケのヤクザとヤクザを扱いなれている堅気の行動なのに任侠映画にある血で染まる争いごとの連続ではありません。むしろ身近な感覚で汚れた金銭の核心を次々に暴いていく展開は、読者が「本当に起こっているのでは」と錯覚するように物語は進行していきます。直木賞作家黒川博行氏が得意とするスピード感あるエンターテイメント小説を堪能できました。

 統計によると今から50年前1970年の暴力団員数14万人くらい、10年前2010年の暴力団数8万人くらい、2021年の暴力団員数2万8千人とあります。世の中は暴力団排除の方向で、一般人が一見してヤクザとわかる人と接することは少なくなりました。一方でヤクザの主な収入源とされていた麻薬や詐欺による昔からのカネ儲けは、ヤクザと関係のない形で今もニュースになっています。ヤクザ「仕事」と普通人「仕事」の壁がなくなって一人ひとりが自分で考えて行動することがますます必要になるということかもしれませんね。

 黒川博行氏の疫病神シリーズ、楽しみながら次を読もうと思います。ではまたお会いしましょう。

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