螻蛄(けら)黒川博行|あらすじ&感想 疫病神シリーズ第4作

黒川博行氏の疫病神シリーズ、「螻蛄」を読了しました。怖いもの知らずの疫病神コンビ桑原と二宮が巨大宗教法人に伝わる貴重な絵巻物をネタにシノギ(収入)を得ようと企みます。しかし二人の行く手にたちはだかるのは伝法宗慧教寺派の歪んだ内幕に乗じて大金をせしめようと群がる悪党、ヤクザ、美人画商達です。桑原と二宮は目の前にさらされる難題に立ち向かい、何度も危ない目に遭って死線をさまよいながらもシノギを得ることに突っ走っていくのです。

 黒川氏の作品は一つひとつの場面に私自身が入っていく感覚で、一節ごとに舞台の幕が下りるような気持ちになります。ちなみに「螻蛄」は2009年出版されて、2016年に映像化されています。関西ヤクザと関東ヤクザの火花が散りそうなせめぎあいを、映像ではなくご自身の“スクリーン”で楽しんでみられるのもいいのではないでしょうか。あらすじと感想を記します。シンプルに楽しんで読むことができる一冊です。

「螻蛄」 あらすじ

伝法宗慧教寺派の宝物、『懐海聖人絵伝』

建設コンサルタント二宮啓之の実家は伝法宗慧教寺派就教寺の檀家です。暴力団二蝶会の桑原保彦は突然二宮の事務所に来て就教寺に行くよう命じます。桑原は、就教寺住職木場博導が伝法宗慧教寺派管主の次男仁科宜隆に大金を貸していることから教団宝物の絵巻物『懐海聖人絵伝』がシノギを得るネタになる、と嗅ぎつけて疫病神コンビの活動は始まります。

京都松徳石材

 二宮が手配した絵巻物撮影会の会場で桑原は約束手形の代償として絵巻物の上巻を手に入れて桑原と二宮は撮影会の場所を離れます。桑原は本物を手に入れてシノギの種にする魂胆でしたが、絵巻物は偽物であることが判明します。木場に偽の絵巻物をつかまされた桑原と二宮は本物を保管している京都伏見の松徳石材に押しかけて松沢徳夫と会い、松沢の目を盗んで絵巻物の偽物と本物を交換して二人は本物を手にいれます。

 桑原と二宮が本物の絵巻物を手にいれると二宮が東京ヤクザに命を狙われるなど危険な目に遭いますが、二人はシノギを得るために桑原が本物の絵巻物を預けたという画商に会いに東京へ走るのです。

東京別院の企み

 東京のホテルで二人が会った画商は二蝶会先代組長の愛人稗田涼子でした。稗田は二人に伝法宗慧教派の東京別院住職で管主の長男仁科昌隆が東京慧教寺の独立を企てていること、独立後の慧教寺の宝物にするために昌隆が松沢の仲介で宜隆から3巻の絵巻物を手にいれようとして大金がうごいていることを伝えます。

 稗田の仲介で桑原と二宮は東京別院の宗務長甲斐義亨と信徒総代の石坂晃に会って、絵巻物上巻の引渡し条件を交渉しますがまとまりません。そして甲斐から絵巻物の奪還を依頼されている東京ヤクザ、勢羽総業に襲われて、二宮は逃げる途中に絵巻物を落としてしまいます。

「甲斐と石坂をたたくんや。あの二匹を金にする」

 勢羽総業から命を狙われた二人はなんとかその場を切り抜けて、東京別院の宗務長甲斐を追い詰め真相を聞き出します。伝法宗慧教寺派名古屋別院住職の管主三男晴隆も独立を計画していること、そして東京別院が独立に必要な資金を名古屋別院が調達してそのカタとして宝物の絵巻物と約束手形を東京別院が名古屋別院に差し出すことを知ります。桑原は東京別院宗務長の甲斐と信徒総代の石坂からシノギを得ることに狙いを定めます。

 東京で画商の稗田から東京別院にまつわる怪文書を買い取った桑原と二宮は、甲斐の悪行を調べるために小田原で造成している東京別院の霊園に向かいます。霊園の事務所には甲斐が手をまわして勢羽総業がすでに二人を待ち構えていました。勢羽組の組員を痛めつけて松沢の役割を理解した二人は絵巻物がある伏見の松徳石材の蔵に向かいますが、二宮が忍び込んだ松徳石材で勢羽組につかまり打ちのめされて大けがを負います。二宮を助けに来た桑原は拳銃を持った勢羽組の組員相手に暴れまわり縛り上げて松沢に会います。松沢から本物の絵巻物を得た桑原と二宮は次の手を打つためにいったん大阪に戻ります。

名古屋から東京へ

 二宮は、松沢の指示で動く悪徳刑事美濃におびき出されて、絵巻物の人質として痛めつけられて山中に転がされますが、桑原が助け出し命からがら大阪に戻ります。そして物語はここから更に盛り上がるのです。

 絵巻物と現金を交換する場である大同銀行名古屋支店の会議室。そこには東京別院の宗務長甲斐、名古屋別院の宗務長矢上と、勢羽組組長の羽鳥有介の姿がありました。引き渡しに際して桑原がもくろんでいた一億の現金はなく羽鳥組長から2500万円が上限だと告げられた桑原は承諾したかのように絵巻物を渡します。実は手渡した絵巻物は偽物で本物は東京で売りさばこうとしているのです。桑原と二宮は美人画商稗田に会うために上京します。

関西ヤクザ対関東ヤクザ

 桑原と二宮は美人画商稗田から東京別院宗務理事友野良晋が2500万円で買い取ることに同意します。東京でシノギを得ようとして勢羽組の妨害に屈せず暴れまわる桑原は瀕死の重傷を負います。その最中に、二蝶会若頭嶋田が東京に到着します。二蝶会組長の森山毅に勢羽組組長の羽鳥から桑原の行動について連絡があり、桑原の行動が組の仕事か個人のシノギかを見極めることが目的でした。嶋田は二宮から絵巻物のシノギにまつわる一部始終を聞いてから先代組長の愛人である画商稗田に会い、二蝶会若頭としての立ち位置を知ります。

 嶋田は勢羽組を訪問します。関西のヤクザの幹部と関東のヤクザの幹部の話し合いはどのように決着するのでしょうか。二蝶会組員の桑原にはどんな沙汰が下るのでしょうか。そして何度も死線をさまようほど痛めつけられた二宮のシノギは。。

「螻蛄」 感想<Novelsman Comment>

 「螻蛄」文中にある伝法宗慧教寺派東京別院宗務局の悪事を告発し上層部退陣を求める一節です、「宗教法人に対する課税問題が我が国における重要課題と論議されている今日、善男善女の信徒による御布施、献金の使い途を有耶無耶にしておくことは許されません。”

  2022年、有名大学が建設した病院の資金に関わる背任と脱税で大学法人のトップと上層部が逮捕されるという事件が報道されました。「螻蛄」の一節の宗教学校に、信徒学生に置き換えると、そのまま学費を納めた学生の怒りを代弁している言葉に思えるのです。黒川博行氏はこのような事件が起こることを予知しているかのようにどの小説にも社会の一幕を書き加えています。

 現代の私たちが抱える課題に踏み込みながらも楽しく読める疫病神シリーズ、次が楽しみです。またお伝えします。

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